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深夜ドラマへの共演というきっかけをもって、
前世という過去持ちの顔ぶれが4人、奇跡的にも相まみえた。
一人だけは前の生の記憶を持ってはない、
あるいは思い出せないでいるようだったが、
あとの3人は自分の過去も再会した互いをも覚えており。
人知を超えた不思議な能力“異能”を持つ人々が
物騒な火器レベルで人知れず跋扈していた魔都ヨコハマにて、
どんな望みでも現実のものとすると言われる「白紙の本」を巡って、
世界をひっくり返すよな規模の巨大な陰謀との凄絶な戦いを繰り広げていた
…という何とも物騒な前世だったものが、
今いる世界は何とも平和で。
国と地域によっては物騒な戦争や紛争も勃発しているし、
平和な日本であれ殺伐とした事件は日々起きているし、
裏社会と呼ばれるような暗部もまったく無いわけではないらしいが。
それでも…今日明日にも武器を手に手に戦場へ飛び込むような
そういった切羽詰まった奇禍には一切縁のない世情であり。
何なら好いた惚れただの妬みや嫉みだので神経すり減らすというよな、
形而上的な懊悩にのたうつことが至上の葛藤だったりする、
なかなかに贅沢な世界とも言えて。
そんな環境下に軍人でも秘密工作員でもない、
一応は“一般人”として転生した彼らであり。
地上数十mなんて高所でのつかみ合いの格闘やら、
骨をも羊羹のようにするりと切り裂ける刃との対峙とか、
過日でこなしたよな、過激でトリッキーな活劇にも縁はあるものの、
あくまでも俳優として演じているという格好の、作り物のそれである。
「おー。こっちだ、こっち。」
同じドラマに出てはいるが、
それ以外のオファーも当然のことながらそれぞれにある。
それでも何かにつけて約束しちゃあ、ともにお出かけとしゃれこんでいる間柄。
そもそもからしてそれぞれが個性の立った有名な顔触れ。
大ヒット作への競演という背景もあり、
さぞかし目立ってしょうがないかと思いきや、
『警戒するほど見つからねぇもんだぞ?』
『ですよねぇvv』
マスクにキャップにサングラスというよな、
いかにも人目を忍ぶようなややこしい変装などしなくともと、
結構あっけらかんとしたもので。
一般人と変わらぬ態度で、ランドマークやテーマツリーやの傍でなんて
待ち合わせなどしていたりする強心臓。
おお居た居たと歩み寄ったはいいが、
まったくの全然、地味な恰好なんかじゃあないいでたちだと気づいて、
おおうと太宰ですら冴えた双眸を見張ってしまうことがあるほどで。
「それって変装じゃあないわけ?」
「? ただの街着だが?」
いわゆるトラディショナルな、
かっちりとした恰好を崩さないという印象がついて回るのが芥川ならば、
街なか、ショッピングモールなどにて ちいとも浮かない恰好、
おめかしとも違う、タウン着というレベル、
さりげなくラフないでたちをするところで
まだ未成年の敦くんと張るのが中原中也さん。
今日もフード付きのブルゾンにデニム地のパンツという、
ざっくりした格好でひらひらと手を振って待ち合わせた場に立っておいでで。
内着はラッシュガードですかと二度見しちゃいそうなほど、
肌にぴったりしたアンダーだったりし。
地味すぎず、軽やかにおしゃれだけれど目立つことはない、
そんな絶妙ないでたちをまとめるのがお上手で。
野暮ったくはない、イマドキというのともちょっと違って個性的な、
そんな装いをサラッと着こなしてしまう。
有名な芸能人だという顔ばれも滅多にしないそうだが、それに関しては
『都内に限っては、
周りの人たちも見て見ぬふりしてくれてる場合が多いんだけどもね。』
芸能人だ、こんなところで見かけたなんてラッキーと騒ぐのは
都会人にあらざるマナー違反なのだとか。
そうという太宰自身がそういう扱いの恩恵にあずかっているそうで。
はっと気がついて視線が飛んでくるのは
もはや…晴れていれば日向が明るいのと同じくらいの常套だけれど、
だからといって人垣に囲まれまですることは滅多にない。
それが目的な人が集うスタジオ周辺は別として、
街歩き中に取り巻かれることは少ないそうで、
「日本人はお行儀がいいからねぇ。」
「ああ、それは言えてるかもな。」
つか、てめえみたいな電柱に気が付かねぇ方が無理がある。
あ、言ったね…と、誰かさんと誰かさんがにらめっこになりかかるのもお約束。
まま確かに背の高い太宰さんが目立たないはずはなく。
ましてや、知的で凛と涼しいお顔は、
淑やかな優しい美貌をたたえておいでで。
それでいて、敦くんが足元不如意で転びかかると差し出される手は大きくて頼もしい。
そんな彼が滅多に取り巻かれないのは、
間違いなく周囲の人々が気を使ってくれているからにほかならぬのだろうて。
そうは言っても
これほど精緻な美貌が目立たないというのは稀有なこと。
目立ってないわけじゃあないけれど、
ハッとして釘付けになったそのまま、声もなく見惚れてしまい、
視野からいなくなってやっと我に返る
「とかいうんじゃないでしょか。」
「おおお、敦くんってば判ってるじゃあないかvv」
きっとそうだと人差し指を立てての指摘へ、
何という鋭い洞察だと、
いたく感嘆してしまうご当人様なのはともかく。(…おい)
“罪作りだよなぁ。”
何というか、様になる。
それは美しい顔立ちをしているし雰囲気がまた独特で。
同年代とは思えない、魅力的な貌。
そしてそこに、水蜜桃みたいな甘くてみずみずしい色香がある。
成年男性としての頼もしさをまといつつも、ふとした拍子に憂いと儚さがちら見えする。
“声をかけるなんて、とてつもない肝試しになっちゃうのかもしれない。”
別にSPが周囲を固めているわけでもないのに、
近寄りがたい何かが助けてくれているこの現状。
綺麗すぎるのも武装になるんだねぇと、
何だか妙なところに感心しちゃった敦くんだったりもして。
◇◇
そのくせ、クラシックや歌劇などの鑑賞では
案外とちゃんと堪能するのが中也さんだけというのもなんだか意外で。
印象派の絵画展に行ってみることも結構あったし、
『美術の教科書に載ってた写真が、実は筆で書いてものだって知ってびっくりでした。』
教科書や、絵画展の図録やポスターのが写真だと思ってたらしく
当時の衣装や陶器、様式とかを、
現代のモデルさんを使って写真撮って再現しました、だと思っていたらしく。
図録どころか真筆の作品を見たら、
衣装のビロウドやマントの毛皮、シルクのつややかさなどなどの質感が、
絵の具の厚みや重ね方で本物を貼ってあるみたいにありありしていて驚きで…なんて、
虎くんが本気でびっくりしましたと瞳を丸めたのへ、
お兄ちゃんたちが微笑ましいなと笑ったものだ。
演奏や歌劇の鑑賞は、座席に身を沈めてという運びとなるので、
太宰さんも、何なら芥川くんもついついうとうとしたり、
転寝しかかってはっと我に返ったりという態を晒すことがたまにある。
“まあ、撮影で忙しかったし。”
古典系、歌劇っぽい作品の舞台からのオファーにも参加はするが、
筋立てに集中しているので曲だけを聴くということはあまりない。
敦くんは、CMとかBGMでお馴染みな曲が多くて楽しいと喜んでいたようで。
“でも、眠くなっちゃうのはしょうがないよね。”
弦楽の響きは、ただ音として聞こえるだけじゃあなく、
総身をくるみこんで柔らかく心持へと届くのが心地いい。
緊張をほぐせと宥めてくれるのへ、
意識をゆだねて安堵の底へゆったりと沈み込むのが何とも心地いい。
寝室だと寝付けない時もあるのに、
どうしてだか寝る場所ではないはずの電車の中とか
ついつい抗えないほど眠くなるのはどうしてなんだろう。
“せっかくお会いできてるのに、もっとお話とかしたいのだけれど。”
忙しくなったのはいいことだし、
いつもいつまでも同じ仕事場ってわけにもいかないのもしょうがない。
学校じゃあないんだから、ちゃんとわきまえないとなぁと、
社会人になりたての敦くんとしては
そこいらに馴染むのが精いっぱいなチャレンジ中。
むしろ、そういう頑張りが判っていてのこと、
自分たちといる時は気を抜いていいんだよと言いたいか、
存分に甘やかしてくれているのが嬉しすぎる。
『寝る子は育つって言うしな。』
『絶叫スプラッタ系超弩級ホラーでも寝たままでいられるのはいっそ頼もしい。』
『うう〜〜〜っ。』
今日も今日とて
ついつい転寝しちゃったのは、
ふかふかな座席だったのと
クラシック曲のゆったりしたいい響きにくるまれたのと、
お隣に座った中也さんが、トントントンと絶妙なリズムで
うなじと肩の間あたりを軽く叩いてくれたから。
無理して起きてなくていいんだぞと、そんな風に構ってくれるのもいつものこと。
それと………
『……あ、つ、…ぃ。』
何だろう。やさしい声がする。
どこからとも知れない、遠くからか空耳なのかもしれない声。
懐かしいような、でも胸がキュッとして、泣きたくなるようなそんな声。
『あ…■つ、…き。』
涼やかな声での呼びかけが、
遠い遠いところから静かに聞こえてくる。
『息災か? 無事だろうか。』
…私の大切な弟よ。
この頃、眠くなると聞こえる不思議な声…。
『……だ。案ずることはない。
槇野殿に託したのは私だから。』
ああ、懐かしくって切ない、不思議な声だ。
優しい声が受け止めてくれるところへと向かうように、
ゆっくりとゆっくりと意識が沈んでゆく。
長い髪のそれは優しい笑顔が懐かしくて、
ああでも、いつも覚えていられないのが歯がゆくて……。
〜 Fine 〜 26.05.09.
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*ちょっと意味深なエピソードをついつい突っ込んでしまってます。
どうして敦くんだけ記憶がない…というか思い出せない身なのか。
そこをぐりぐりいじってるうちに
原作様の第一部終了の最新刊が出てしまってて、
気になってるお人の生死がそういや不明だなぁと、思っちゃたもんですんで…。

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